コンスタブルゆかりのデダム・ホールでおこなわれた教室でポール・バニング先生が私たちに絵の構成要素を尋ねました。色彩と、形態と、ほかに何がありますか?と問いかけました。私たち生徒の一人が、「光もそうです。」と、答えました。私はその時その場でとっさに考えをまとめて答えることが出来なかったのですが、その上さらに「時間」も絵の重要な構成要素として加えたいと思います。 わたしたちは過ぎ行く日々の貴重な瞬間をとどめたいと思うことがたびたびあります。例えば、人生の春、最愛の子の成長過程、伴侶と過ごす穏やかな老後…しかし時を止めることはできません。そこで絵を描いて大切な瞬間を記録しようとします。私は写真より絵画の方にありがたみがあると感じています。その根拠はどんな写真も、たとえそれがその時代の偉大な写真家によって、最新の高価な機材を使って撮影されたものであっても、機材の急速な進歩や写真術の変化で、やがて輝きを失います。言い過ぎの嫌いもありますが、絵画は描かれたそのものの時間を表すだけでなく、画家の個性や、気持ちや、解釈をもより濃くとどめるような気がします。 ついでながら、全ての絵も終には分解して、消滅します。しかし文章と詩歌は色あせることなく生き延びるでしょう。いつしか時が過ぎても…ロバート・バーンズの蛍の光の歌詞にあるように。
私は劇的な日没を描きとめようとしたのですが、うまくいきませんでした。そこで思い直してココナツ岬の方角に目先を変えました。行き詰まったら、気持ちを切り替えるのも一計です。あまり一つの作品を深追いしないほうがいいと思います。そうでないとすぐ隣にある結構いい景色も目に入らなくなってしまうことがあります。
雲が重くどんより垂れ込めた冬のロンドンの悪い面ばかりではなくいい面を探そうとしました。その答えは、この夕暮れ時のような光が、朝からパブめぐりをする後ろめたさを忘れさせるということです。私はピカデリーサーカスのストーンウォーターという本屋さんを覘いて、CAMERAと略されている「真正の地ビールのための啓蒙運動」という組織の発行している「ロンドン、パブめぐり」という本を買い求めました。書店の中のラウンジでそれを読み、ロンドン橋の近くのロイヤル・オークを選び出し、そこへ行くことにしました。そこでは常連の年配客たちが止まり木に腰をかけていました。私が食べた鰯と地ビールはとても新鮮、値ごろで実のあるものでした。
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